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男性更年期障害とLOH症候群の関係について

NHKの『ためしてガッテン』の放送以来、当クリニックにはLOH症候群の診察を希望して12月14日現在までに新たに約140名の患者さまが来院されました。
患者さまの60%以上はAMSスコアで50点以上と重度のLOH症候群の鑑別を要するカテゴリーに属しています。その患者様のLOH症候群と最も関連性の高い男性ホルモンである血液中の遊離型テストステロン(フリーテストステロン、以下FT)の値は以下となっています。

以前より私はコラムなどで判りやすさを優先するために『男性更年期障害(LOH症候群)』という書き方をしてきました。またテレビなどでも男性更年期障害とLOH症候群があたかも同義語の様に扱われています。しかし厳密にはこの2つの疾患の概念は微妙に異なります。
LOH症候群とはあくまでも性腺機能低下により様々な症状をきたす疾患概念であるため男性ホルモンが低値であることが絶対条件となります。それに対して男性更年期障害とは、同じく加齢の影響が色濃く反映される40代後半以降に生じる身体・精神症状という点では同様なのですが、男性ホルモンの低下は必須ではありません。
AMSスコアが高値となる様な症状があれば、男性ホルモンの数値が境界型を含めたLOH症候群の基準を満たしていなくても男性更年期障害である可能性は十分在り得るのです。

では何故上記のLOH症候群か非LOH症候群の男性更年期障害かを鑑別診断する事が重要なのでしょうか?

その理由は治療法の選択が大きく変わる事にあります。

LOH症候群であれば治療の基本はホルモン補充療法(ART)になります。当クリニックで行っている一般的な男性更年期障害の治療に加えて男性ホルモンの注射(エナルモンデポー)や外用薬(グローミン)を使い治療をして行きます。
境界型LOH症候群の場合もホルモン補充療法は適応になります。ただし境界型の場合は、先ずは漢方薬や『ソフォン』というサプリメント、プラセンタ注射などのホルモン補充療法以外の治療より開始し、状況に応じてLOH症候群と同様にホルモン補充療法を行います。

遊離型テストステロンの値が11.8以上の非LOH症候群の男性更年期障害の患者さまはホルモン補充療法の適応にはなりません。
このカテゴリーの患者さまに関してはホルモン補充療法の効果が得られにくく、その割にリスクが高いという学会判断のためです。
この場合は漢方薬、プラセンタ注射などを中心に治療を組み立てて行きます。
女性更年期障害の場合も同様の考えで治療しているのですが、女性の場合は
@男性に比べてホルモン分泌の個人差が少ない
A月経という目に見える形のホルモン分泌の指標が存在する
Bホルモン治療の薬剤が質・量とも充実しており、さらにその多く保険適応となっている等
以上のことから、男性更年期障害よりクリアカットな診断・治療が行われています。
LOH症候群や男性更年期障害も保険適応で診断・治療が出来るようになると本当に良いと思います。

今回のテレビの影響でLOH症候群および男性更年期障害に多くの方が興味を持たれています。それ自体はとても良い事なのですが、一方で少し困惑する様な事態もおきています。
先ずは、LOH症候群のホルモン補充療法(ART)が過大評価されている面が挙げられます。
ARTを受けた患者さまをテレビで見ると、あたかも1回の注射でLOH症候群が治り、その後は何も治療しなくても永遠に治った状態が維持されているように見えます。
治療効果には大きな個人差があるため1回の注射で治る人もいるかも知れませんが、それはあくまでも例外です。
ホルモン補充療法は一般的には綿密に血液検査を行いながら、2〜4週間毎に2〜10回ほど行います。つまり、標準的なホルモン補充療法は半年位かけて根気良く治療を行うことが多いのです。
また、ホルモン補充療法は非常に有効な治療ではありますが、万能ではありません。ホルモン補充療法が改善するのはホルモン低下に直接関係ある症状であって、体の不調を総て解決してくれる訳ではないのです。
そのために当、代官山パークサイドクリニックでは漢方薬を中心とした他の治療をホルモン補充療法と併用し、治療のクオリティを高めています。

次に、LOH症候群ではない(男性ホルモンの数値が低くない)と判ると失望する方が意外と多いのにも困惑しました。
確かに患者さまの立場から見ると、LOH症候群と診断がつけば良くも悪くも“判りやすい病態と治療”を行う事となり、治療の指標も遊離型テストステロン(FT)値など数値化され把握しやすくなります。
その点、FT値がLOH症候群の基準を満たさない「非LOH症候群の男性更年期障害」は病態が漠然としていて判り難い部分があるためにその様な反応になると思われます。
しかし、治療という観点から考えると「非LOH症候群の男性更年期障害」はLOH症候群のホルモン補充療法による治療が成功した後の病態と考えられるため、良い状態であると考えるべきです。
このカテゴリーの患者さまにはしばしばプラセンタ注射が著効します。プラセンタ注射は女性の更年期障害に対しては1956年の保険適応認可から半世紀以上に渡って治療の一翼を担っている実績のある医薬品で副作用が少なく非常に高い効果が得られます。
私は女性の更年期障害を漢方薬と週1回のプラセンタ注射を中心に治療を行っていますが、私の印象ではプラセンタ注射はむしろ男性の更年期障害患者の方が有効な印象があります。
実際に今回来院された患者さまの中でFTが標準的なためホルモン補充療法の適応ではない方にプラセンタ注射を週に1〜2回行い、驚く程の効果を実感されるケースも数多くあります。

また、「うつ病」なのかLOH症候群なのか見分けて欲しいという要望も数多く見られました。
患者さまからの声のみならず、医師からも「この患者はうつ病の診断で間違いない。したがってLOH症候群ではない。」という意見を聞いた事もあります。
しかし、うつ病とLOH症候群はどちらか単独でしか存在しない病態ではありません。この2つは合併しうる病態と考えられます。
そのため、合併している場合は両者の治療をバランス良く行う事が重要と考えます。
そのため、LOH症候群の治療を行えばうつ病の治療を中止して良いとはなりませんし、うつ病の治療薬をガッチリ飲んでいればLOH症候群の治療は必要ないという考えも間違っています。
両者の治療をバランス良く行う事が重要です。(LOH症候群とうつ病の関係は右図もご参照下さい。)

最後に、12月上旬以降、他の医療機関でホルモン検査を行い、その結果を持って当クリニックで治療を希望される患者さまが来院される様になりました。
当、代官山パークサイドクリニックではこの様な患者さまにも幅広く対応させて頂いております。しかし、ホルモン補充療法を行う場合には、治療の安全性や効果の確認などの観点から、原則として検査した医療機関からの紹介状をお持ち頂くか、当クリニックでの血液検査をお願いしています。
なるべく患者さまの負担が少なく診断・治療が出来る様に心掛けておりますので、ご理解の程よろしくお願いいたします。

代官山パークサイドクリニック
院長 岡宮 裕

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