男性更年期障害(LOH症候群)の話の続きです

キリスト教の旧約聖書では、神様は先ず自らの姿に似せて土から最初のヒトであり男性であるアダムを創り、その後アダムの肋骨から最初の女性であるイヴを創ったとされています。しかし、生物学的、発生学的にはその考えは逆転します。生物学的には性染色体がXXであるものが女性となり、性染色体がXYであるものが男性となる訳ですが、X染色体の一部が突然変異により欠損したものがY染色体であると言われています。そのため、系統発生学的観点では人類の基本形は女性であり、男性は女性から分化したものと考えられています。発生学的にはイヴからアダムが創られたのです。

同様の事は個体発生でも見てとれます。

エルンスト・ヘッケルの反復説は「個体発生は系統発生を繰り返す」と唱えています。これはヒトに当てはめると、ヒトは受精直後から誕生までの間に原始生物からヒトに至るまでの進化の過程が母親の胎内で再現されるという事になります。個体発生的にはヒトは受精後2カ月位までは性染色体がXX、XYのいずれであっても女性の形質を備えています。順調に発達すれば性染色体に関わらず全個体は女性形となります。ところが、受精後2カ月になるとXY染色体を持つ個体は母親の胎内で多量の男性ホルモン( アンドロゲン または テストステロン )を全身に浴び、その結果胎児は男性個体へと分化・発達して行くのです。つまり胎生2カ月までは女性であり、その後アンドロゲンにより男性になる訳です。そして出生後も、男性はアンドロゲンの力を借りて、「努力して」男性であり続ける必要があるのです。かくも苦労の絶えない存在が男性なのです。

男性ホルモンは分泌量の個人差が大きいのも特徴の一つです

女性の場合は妊娠・出産を可能とするためのホルモン量や妊娠可能年齢の問題から女性ホルモンの分泌量は比較的個人差が少なく、また閉経期にホルモンが急速に低下します。それに対して男性は、出生前の母親の胎内でのアンドロゲンシャワーなどの影響で個体間の男性ホルモン分泌の絶対量が大きく異なります。また男性ホルモンは20代をピークに徐々に減少して行きますが、減少の仕方にも大きな個人差が存在します。男性更年期(LOH症候群)の発症や重症度には男性ホルモンの絶対的な低値はもちろんのこと減少幅がより重要な役割を果たすと言われています。
当クリニックでは血液検査として、最も重要な男性ホルモンであるテストステロンを測定するのに加えて脳下垂体から分泌されるLHという刺激ホルモンを測定する事によって、男性ホルモンの絶対値としての低下に加え、低下の度合いの推測やフィードバック機能が保たれているかを推定します。それによって男性更年期(LOH症候群)の診断はより正確なものになります。
またホルモン補充療法を視野にいれている場合、ホルモン測定は必須です。しかし困った事もあります。実はこれらの検査は保険適応にならないのです。女性更年期障害の場合は女性ホルモン(エストロゲン)LHの測定は保険適応で血液検査可能です。また男女とも更年期障害にはプラセンタ注射による胎盤療法が著効しますが、これについても女性は保険適応になりますが、男性は保険治療が認められていません。
男女差と言えばそれまでですが、こと更年期に関して男性は不当に差別されている気がします。しかし男性ホルモンの測定は自費で払うに値する有意義なものであると私は考えます。

男女差と言えば、性ホルモンが健康や寿命に与える影響にも興味深いものがあります

女性の平均寿命は男性のそれに較べて長い傾向にあります。その理由については様々な要因が挙げられますが、最も重要な因子は女性ホルモンによる動脈硬化の抑制効果と言われています。「女性ホルモンは長生きのもと」という考えが一般に浸透すると、いつしか男性ホルモンが寿命を短くするというイメージが出来上がってきました。しかし、最近の研究では全く異なる驚きの事実が判明しています。
以下に列記します。

  • 男性ホルモンが低値だと内臓脂肪面積が増加する。つまり太りやすい。
  • 男性ホルモン低値は単に太るだけではなく、生活習慣病(糖尿病、高脂血症、高血圧)になる確率も大幅に増加させる。
  • 血液中のテストステロン(最も活性の高い男性ホルモン)が低下すると寿命が短くなる傾向がある。(男性ホルモンが多い方が健康で長生きできる!)
  • 高血圧の患者は男性ホルモンが低値の傾向がある。
  • ロンドンの証券マンを対象とした調査では、男性ホルモン優位の社員の方が有意差をもって個人成績(売上)が良かった。

男性ホルモン低下が実に意外なところにまで影響する事がお判り頂けたと思います。男性更年期(LOH症候群)は単に人生の質(QOL)にとどまらず、内科疾患の発生、ひいては寿命にまで影響する可能性があります。その検査・治療の重要性は女性更年期障害によりも高いかもしれません。

最近世間では男性ホルモンが少なそうな「草食系男子」が持てはやされている様です。淡泊で中性的、スマートな体型の彼らは20代の頃は魅力的だと思います。しかし、草食系男子の将来像は、筋肉の少ないお腹ポッコリ系の肥満体形で生活習慣病を発症し、仕事の意欲が薄く、家族サービスもインドア派という図が浮かびます。「男は男らしく。」ぜひとも「草食系男子」は男性ホルモンを増やして肉食系に体質改善をすべし、と思うのは「肉食系中年オヤジ」である私のヒガミでしょうか?

男性ホルモンを増やすには具体的にはどの様な事を心掛けていれば良いのでしょうか?

先ず日常生活に於いて男性ホルモンを増やす最も有効な手段は恋愛です。

恋愛によるドキドキ感は何よりも男性ホルモンの分泌を促します。趣味や仕事に熱中し、何事にも全力で取り組む事も大脳辺縁系を活性化し、男性ホルモンの分泌に繋がります。運動もまた男性ホルモン分泌には重要な要素です。本格的な運動でなくてもかまいません。軽いウォーキングやストレッチでも十分効果が期待できます。食生活も重要です。アミノ酸を多く含む食品を積極的に摂る様にしましょう。具体的には、牛・ブタ・羊肉の赤身の部分、卵、牛乳、アジ・サケなどの魚がお勧めです。まさに「肉食系」ですね。

ちなみに草食系男子にも良い点はあります。性格的に穏やかである事、中年になっても髪の毛が無くならない事です。TVのCMなどでご存じの方もいるかもしれませんが、AGA(男性型脱毛症)の治療と称して男性ホルモンを抑制する治療が現在広く行われています。当クリニックでもAGAの治療相談に乗っていますが、LOH症候群の治療方針とは多少相反する部分もあり、両者同時並行の治療には頭を悩ませているところです。

当、代官山パークサイドクリニックでは、男性更年期障害(LOH症候群)の検査、治療に力を入れています。男性おひとりでも、ご夫婦一緒でも来院しやすい更年期外来を心掛けております。いつでもお気軽にご相談ください。

LOH症候群(男性更年期障害)については、こちらもご覧ください。

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