ヒスタグロビン注射のアトピーへの応用についての話、アトピー性皮膚炎の治療総論にまで言及しているため、だいぶ回り道をしていますが、続けます。
今回は、「アトピーの“世界にひとつだけの治療”?」です。

アトピー性皮膚炎に対するステロイド外用や抗ヒスタミン剤内服などによる標準治療の問題点については、今までのコラムで言及しました。
そして、アトピーに悩む多くの患者さまが、治療の効果および副作用といった観点から、標準治療を希望していないという現実があります。
しかし、アトピーの標準治療を希望せず、他の治療法に活路を見出そうとする場合には、あまたの苦難が待ち受けています。
何故でしょうか?考えてみたいと思います。

一般の皆様は、医者が病気=疾患をどの様に治療しているかご存知でしょうか?
医者が最初に行う事は、診断です。その病気が、何が原因で起こっているのかを、医学的分類に基づいて診断をつけます。そして、診断に基づく一般的な治療、すなわち標準治療より治療を開始します。
診断が確定できない場合は、疑い病名のまま暫定的に治療を開始し、その治療効果を見て診断をつけて行く方法をとります。これは、診断的治療もしくは治療的診断と言います。
それでも診断がつかない場合は、対症療法を治療の前面に押し出して治療を進めます。

また、病気=疾患が、急性疾患なのか慢性疾患なのかによっても治療法の原則は大きく異なります。
先ず、風邪などに代表される急性疾患の場合は、治療は対症療法が中心になります。急性疾患は、期間が限定的であり、身体の自己治癒力も期待されます。投与期間が限定的であるため、比較的強めの、身体への負担の大きい治療薬を使う事を選択する事も多くなります。
それに対し、高血圧や糖尿病などに代表される慢性疾患は、基本的にエンドレスで治療する必要があります。糖尿病などは、自然治癒はほぼ期待できず、食事療法などを行った上で、生涯治療を続ける必要があります。治療薬は、生涯投与する事も可能なものである必要があるため、必然的に身体負担が少ない薬とする必要があります。

実は、アトピー性皮膚炎の治療は、上記の治療原則に当てはまらない要素が大きいため、様々な問題が生じるのです。
アトピー性皮膚炎という物は、疾患の分類としては、紛れもなく慢性疾患です。皮膚の状態が良くなったり悪くなったりする事はあっても、原則的には完全治癒する事はありません。慢性疾患として長く根気よく治療を行う必要があるのです。
しかし、アトピー性皮膚炎の治療に使われるものは、ステロイドの塗り薬を始めとする対症療法薬、つまり急性疾患治療に比較的適した薬です。
慢性疾患にも関わらず、限定使用を前提とした治療薬を多用せざるを得ない状況。アトピー性皮膚炎は、その標準的治療についてですら大きな矛盾を抱えているのです。
その結果、アトピー性皮膚炎は十分な強度の治療を行うと、少なからぬ副作用が予想されたり、治療継続に大きな不安を抱える事になります。
そして、その状況が、治療途中での病状放置や、良くも悪くも標準治療以外の治療への移行に繋がるのです。

アトピー性皮膚炎の標準治療以外の治療は、実に多岐に渡ります。
その中には、医学的な根拠のあるものから、およそ医学とは言えないものまでさまざまです。
これら玉石混交の中から、どの様にして良い治療を見分ければ良いのでしょうか。

もっとも重要な事は、普遍性であると私は考えます。
「この方法でアトピーが完治!」などのうたい文句の特別な治療の宣伝文句は、「この方法で進行ガンが消えた!」というガンの特効薬の宣伝に似ています。
ガンの特効薬と称するものの宣伝手法を例にとって説明すると判りやすいと思います。
一般的に言うと、ガンを消失させる薬は現代の標準的な医学治療では存在しません、という事になっています。
それに対して、「ガンが消えた」と称する“特殊な治療”は、ともかく症例を前面に押し出します。
CT画像などに映るガンを示して、治療後にガンが消失した画像を並べて、ガンに効いた動かぬ証拠、という論点です。確かに、その一例に限って言えば、「その特別な治療を行った患者に於いて、ガンが消滅した」という事実はあります。
しかし、ここには二つの大きな問題が存在します。一つは、その治療の効果でガンが消滅したかどうかの検証がなされていない点。もう一つは、その治療の効果でガンが消滅したとしても、その効果がどの程度の普遍性があるか、すなわちどの程度の患者に有効であるかという問題に言及されていない事です。
その点が検証されていないにも関わらず、治療の有効性に疑念を抱く人に対しては、「もし、この治療が嘘だというのなら、このガンが消えたCT画像はどう説明するのですか?ガンが消えたという事実はなかったとでもいうのですか?」という論点のすり替えで対応し、普遍性については曖昧にする、こんな対応をしています。

アトピー性皮膚炎の治療についても、同様の事が言えます。
さらに、アトピー性皮膚炎は、ガンに比べて、病状を評価する手法がファジーであるため、アトピーに効いたという実例を示すのが比較的容易です。これが、アトピー性皮膚炎の“特殊な治療”が雨後の筍の如く乱立する原因となっています。
そして、この“特殊な治療”については、「大手の製薬会社が手掛けないが、我が社は行っている、万人に効く画期的な治療」であり、「アトピー性皮膚炎に対する、我が社だけの“世界にひとつだけの治療”」と詠われています。大手の製薬会社が手掛けないのは、既存の薬が売れなくなる事を恐れてわざと出さない、などともっともらしい説明がなされています。
しかし、薬剤開発に携わる、医師や薬剤師などの研究者も、大手製薬会社の開発スタッフも医療従事者です。プロです。
その道のプロが、既存の薬の売り上げなどというケチな理由で、多くの患者のためになる薬を闇に葬るなどという事をするとは到底考えられません。それに、それほど有用な薬が小さな製薬会社で開発されたのであれば、必ず大手製薬メーカーが買収します。私が知りうる限りでは、例外はありません。
つまり、常識的に考えると、これらの“アトピーの特殊な治療”は存在しないのです。

では、標準治療以外のアトピー性皮膚炎の治療のうち、上記の様な信頼するに値しない治療と、私が推奨している漢方薬やヒスタグロビン注射などとはどう違うのでしょうか?
それも、ずばり「普遍性」です。
漢方にしても、ヒスタグロビンにしても、何故アトピー性皮膚炎に有効であるかが全て特定されているわけではありません。(もちろん、理論はありますが完全ではありません。まあ、最新の物理学の様な良くも悪くも不完全なものですね。)
しかし、それを補うものが統計学です。多くの症例を統計解析して、有意差が出たものを真実とする。この手法をきっちりと踏んでいるのが、漢方薬でありヒスタグロビン注射であるのです。
この普遍性という一点をもって、漢方やヒスタグロビン注射は、信頼性のない特殊な治療と異なると言えるのです。

漢方治療に於いては、体質などを見極めて各人に合わせた、異なる治療を行います。これは、基本的に全ての患者に同一の治療を行う西洋医学、特に標準治療とは大きく異なります。
この異なる治療を行う漢方治療は、患者に合わせて大きく異なる治療法は選択するものの、その選択基準に、2000年以上の経験に裏打ちされた統計学的手法が用いられています。そういった意味で、西洋医学とは異なる体系の普遍性が漢方治療には存在すると言えます。

アトピー性皮膚炎の治療には、様々なものがあります。
しかし、誰も知らない魔法の様な治療は存在しません。
漢方治療、ヒスタグロビン注射など、各人の体質を考慮した「only one」の治療を選択したり併用したりするは良い事だと思います。
しかし、我が社のみが知っている「もともと特別なonly one」などと詠う治療などは、どうやら敬遠した方が良いのではと私は考えます。

次回は、アトピー性皮膚炎のヒスタグロビン治療が抱える問題点についてお話します。題名は未定ですが、「クオリティ・スタート。先発ローテーション投手の条件とアトピー性皮膚炎治療の考え方」についてです。

【普遍性:ふへんせい】 英語:Universality
すべての物事に通じる性質。すべての物事に適合する性質。
※対義語:特殊性

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