もっとニキビの話

前回はニキビの治療の総論(2001.6.17 ニキビの話)をお話しました。ここでは具体的な症例をあげて、当クリニックでのニキビ治療の実際を解説したいと思います。

《症例1》22歳、女性  職業:美容師

〔症状・所見〕
高校時代からニキビに悩まされていたが、2年前に就職してから悪化した。仕事柄労働時間も長く、睡眠、食事も不規則になりがちである。胃腸などの消化器系が人よりやや弱く、便秘や下痢をしばしば認める。今回は2日前から、右頬、額に内部に膿を内包し発赤した尋常性?瘡(いわゆる赤ニキビの状態)となったため来院した。
〔治療〕
本人がなるべく体に負担がかからない治療を希望したため、漢方薬を中心とした治療とした。漢方薬は保険適応となるエキス剤を処方した。

漢方薬の『清上防風湯(せいじょうぼうふうとう)』 7.5g /日×7日間の内服に加えて、アダパレン(商品名:ディフェリンゲル)を一日一回外用でニキビ治療とした。消化器系が弱いという事もあるため、漢方薬の『四君子湯(しくんしとう)』 7.5g/日×7日間内服も併用した。

一週間後ニキビはほぼ消失したが、漢方薬内服で胃腸の調子が良いため、漢方薬の内服継続を希望。上記『四君子湯』を同量で継続処方とした。2ヶ月後、便秘や下痢などの症状が改善した上、肌がみずみずしくなった事に気づいた。また、周囲から『最近、性格が明るくなった』と言われている。消化器系の改善とともにニキビも出来なくなったが、出来たときの用心のために『清上防風湯』を常備薬として持っている。

〔解説〕
『四君子湯』内服で消化器系を改善する事によりニキビが出来やすい体質を変える事が出来たと考えられます。漢方薬によるニキビ治療は単に出来たニキビを直すだけではなく、ニキビが出来にくい体質に改善する事が可能です。

《症例2》18歳、男性  職業:高校生

〔症状・所見〕
ラグビー部に所属、体は大柄でともかく良く食べる。年中顔面や胸、太もものニキビが消える事が無い。
今まで市販のニキビ治療のものを親や周囲に内緒で試すも効果が少ないため、根本的治療を希望して来院した。
〔治療〕
先ず、皮膚の清潔を保つ重要性を説明。疲れていても風呂に毎日入ること(!)とし、また洗顔指導も行った。

漢方薬『清上防風湯』7.5g /日×14日間内服に加えて、ニキビのひどい所に体への影響が少ない外用薬の抗生剤である『ダラシンゲル』を一日2回外用とした。2週間後、ニキビがだいぶ改善したため、ダラシンゲル外用を中止。漢方薬を『清上防風湯』から『防風通聖散(ぼうふうつうしょうさん)』7.5g/日内服に変更し、体質改善をはかった。

現在も『防風通聖散』内服を続けているが、ニキビの状態が目に見えて良くなってきている。また最近、オーバー気味だった体重が自然に減ったが、タックルの鋭さなど体のパワーは変わらないと言っている。

〔解説〕
食欲が旺盛で元気な人のニキビは、東洋医学的には体の中の余分なものを外に出すために生じると考えられています。先ずは即効性のある『清上防風湯』でニキビの状態を落ち着け、その後『防風通聖散』により体質改善をはかっています。

《症例3》49歳、女性  職業:主婦

〔症状・所見〕
若い頃からニキビに悩んでいた。年齢とともに激しいニキビは少なくなったが、ニキビ跡がシミになるなどがあり気にしている。エステサロンでの会話がきっかけで漢方薬を処方してくれる医療機関受診を思い立ったとの事。やや大柄な体格。最近更年期障害の症状も自覚している。

現在までニキビは主に皮膚科を受診。比較的軽症のニキビでも内服の抗生剤を飲み続けてきたとの事。

〔治療〕
先ずはなるべく抗生剤を飲まないように説明した。更年期障害による女性ホルモンバランスの乱れがニキビ悪化に関与している可能性を考え、初診時に血液検査を施行した。

ニキビについては、活動性のニキビも散見されるもののニキビ跡とシミの治療が主であるため、漢方薬やビタミン内服を中心とした治療を選択した。

『桂枝茯苓丸加?苡仁(けいしぶくりょうがんかよくいにん)』7.5g/日を開始したが、これは慢性的なニキビ治療と更年期障害の治療の双方に効果が実感できる漢方薬である。他に内服薬でビタミンCとビタミンB2、Lシステイン(商品名『エコラン』『ハイチオール』)の内服を併用した。

また更年期障害の簡易診断スコアであるSMIスコアが62点と高くかったためプラセンタ注射による治療も行っている。

現在治療開始3ヶ月であるが、シミが薄くなるなどの効果が実感でき、肌のシットリ感も増してきたとの事。更年期障害のホットフラッシュ、発汗も改善傾向にある。

他にもピーリング石鹸によるケミカルピーリングを自分自身で行っているが、これも良い感触なので続けて行きたいとの事である。

〔解説〕
女性のニキビには女性ホルモンのバランスの乱れが大きく影響します。そのため更年期の女性でニキビに悩む女性は少なくありません。漢方薬は更年期障害と慢性的なニキビの治療を兼ねる事が可能です。またこれは他の年代の女性にも応用が可能です。月経不順や月経困難があり、ニキビもある方はぜひ漢方薬による治療をお勧めします。
また更年期障害治療の目的で施行しているプラセンタ注射も、肌の血流改善やニキビ跡の修復に効果がある事が知られています。

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岡宮 裕 院長
1990年 杏林大学医学部 卒業 慶應義塾大学腎臓内分泌代謝内科に入局 横浜市立市民病院・静岡赤十字病院・練馬総合病院他 腎臓病・高血圧・糖尿病・血液内科やアレルギー疾患など内科全般の幅広い医療に従事。 代々木上原の吉田クリニックにおいてプラセンタ注射を使った胎盤療法等の様々な領域について研鑽を重ねる。 2009年 代官山パークサイドクリニック 開業 2011年 海外渡航前医療センター 開設

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