咳がひどい時の治療の話をします。

咳がひどい時や長引く咳の時、咳止めを希望する方が多くいらっしゃいます。

咳を止めて楽になりたい、というのは患者さんにとっては当然のことです。

 

しかし、咳はなぜ出るのか?

その咳、本当に止めて良いのか?

という事を考える必要があります。

 

そもそも、咳は生体の防御反応のひとつです。

咽頭や気管支といった気道=空気の通り道の中の、身体にとって不要なものを外に排除しようとするために起きる身体の反応です。

この排除の対象となるもは、細菌やウイルスといった病原体、傷ついた気道の粘膜の破片、痰や気道に流れ込んだ鼻汁などです。

その他にも、水や食べ物が誤って気道に入ってしまった場合も激しい咳を生じます。飲み物を慌てて飲んでむせる時などですね。

 

咳止め、特に西洋薬の鎮咳剤や咳止めの成分が入った総合感冒薬というものは、この咳を中枢神経に介入して無理やり止めてしまうという作用を持った薬です。

そのため、咳止めを使うと、咳が止まる事によって身体は楽になりますが、不要物の排除が妨げられるために病状の改善に若干の諸症をきたすことになりかねないのです。

そして、その結果、最悪の場合は、現病の悪化にとどまらず、気管支炎や肺炎などの合併症や細菌の2次感染をきたす原因になることもあります。

さらに、喘息などアレルギー性の要素がある場合には、痰の排除に支障をきたす結果、気道流量の減少を招き、喘息発作の原因にもなります。

他にも、痰が排除できずに気道に詰まる状態が長引くと、肺に無気肺という空気が入らない領域が出来たりという危険もあります。

 

以上の理由から、病状の改善という観点だけから見ると、咳止めは不必要な薬という事になるのです。

 

しかし、他の観点からは咳止めは必要です。

先ずは、飛沫感染防止という点です。新型コロナ感染症をはじめとするウィルス感染に於いてもっとも重要な感染経路は飛沫感染で咳をすることはこれに関与します。もちろん、感染拡大防止にとって最も重要なのは隔離ですが、咳止めにも一定の意義はあります。

また、咳が続くことに対する周囲への影響、特に心理的影響も考えると、咳止めによる咳の治療は、社会的にも大きな意味を持つかもしれません。

 

他にも、激しい咳は身体の消耗を招き、胸郭に大きな負担をかけます。

激しい咳は、一回で1-2カロリーのエネルギー消費を伴う運動であり、これがすべて胸郭を構成する筋肉によって行われます。

そのため、激しい咳は胸郭の筋肉や肋骨、肋軟骨に負担をかけ、同部位の疼痛をきたしたり、最悪の場合はろっ骨などの損傷を招く場合もあります。

また、エネルギー消費により、身体の疲弊を招く場合もあり、それが病状回復に支障をきたすこともあります。

 

激しすぎる咳に関しては、基本は不要であるはずの咳止めの薬も飲む意義があるのです。

この辺りは、要は匙加減であり、適切な量の咳止めを、必要最低限の期間投与していく必要があるのです。

 

咳に関しては、咳止めを飲む以外にも有効なものがあります。

先ずは痰の切れが悪い場合です。

痰を出すために過剰な咳が出る場合には、痰に対する去痰剤を使うと痰を出しやすくなり、その結果咳が減ることがあります。

喘息などのアレルギーによる咳の場合は、気管支拡張剤やステロイドなどの喘息の薬を吸入薬などで症状を緩和することが期待できます。

咳の原因が、肺炎や気管支炎である場合は、それらの病態に対する根本治療を行う事が重要です。

 

薬の他にも有効な事があります。

痰の切れを良くしたり、気道粘膜の刺激を少なくして咳の発生を抑えるという点からは、必要な水分をしっかり飲むという事が重要です。

空気の乾燥も咳の悪化に大きく関与します。季節によっては、空気が乾燥しますので、部屋を適宜加湿することも、咳に対して有効です。

長引く咳に対しては、入浴も効果があります。適切な入浴な、身体を温め、気道粘膜の加湿を行う事により咳を緩和する事に繋がります。もちろん、熱がある時など急性期時の入浴は注意が必要ですが。

 

今回は西洋薬の咳止めの話をしました。

咳に対しては漢方を使う治療も存在します。

即効性があり、長引く咳にも有効な漢方薬による咳の治療について、次回お話したいと思います。

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