閉経(メノポーズ)

女性は胎生期(生まれる前)の4ヶ月位までに原子卵胞という形で卵細胞が用意されます。卵細胞は減数分裂という通常の細胞分裂とは異なる方法で卵子形成を行うため、卵巣の卵細胞は増える事はありません。胎生4ヶ月には700万個位の卵細胞が卵巣に用意されていますが、年齢と共に徐々に減少して行き、卵細胞が数千個のレベルにまで減少すると卵巣はエストロゲンなどの女性ホルモンを分泌する能力を失います。これを閉経(メノポーズ)と呼びます。閉経の年齢は、日本人では平均50歳と言われています。

更年期障害の定義

その閉経の先立つ数年前から、女性ホルモンの欠乏に起因する症状や体の変化の中で症状が自制内にないものを更年期障害と言います。更年期の症状は多岐にわたり、その程度も千差万別であるため、どこまでが更年期障害と考えるかは難しいところですが、学会の提唱する更年期障害(更年期症候群)の定義は以下となっています。
『更年期に現れる多種多様な症状の中で、器質的変化に起因しない症状を更年期症状と呼び、これらの症状の中で日常生活に支障を来す病態を更年期障害と定義する』

ではなぜ更年期障害が起こるのでしょうか?

女性は10歳代の前半位に女性ホルモンの血中レベルが高まり、月経が始まります。女性ホルモンの働きにより女性はより女性らしい体に変化していきます。その後、女性ホルモンはメンタルからフィジカルまで多岐にわたり影響を及ぼします。月経が始まって以降の女性は、女性ホルモンが体に存在する事を快適に感じているようになるため、女性ホルモンのレベルが低下すると渇望を感じます。この渇望によるものが更年期症状です。

更年期障害は前述の様に閉経の前後5年位に見られます。更年期障害の症状は女性ホルモンの低下によっておこると思われていますが、それだけでは更年期症状はおきません。『女性ホルモンが低下傾向にあり、なおかつ身体が女性ホルモンを欲しがっている』という状況で生じるのが更年期症状なのです。

判りやすく話します。

女性は誰しも長年に渡って女性ホルモンが低下している時期を経験しています。そう、初潮までの間の期間です。この時は女性ホルモンの値は限りなくゼロに近いはずです。(もしそうでなければ物心つく前から月経があることになってしまいます)。しかし、この頃には更年期症状はありません。『(女性ホルモンが少ないから、)ほてるし、汗かくし、肩はこるし、イライラするわ!』などと悩んでいる幼稚園の女の子はあまり想像できません。なぜ、幼稚園児は更年期症状が出ないのでしょうか?それは『幼稚園児は、体が女性ホルモンを欲しがっていない』からです。ホルモンの中には無いと生命が維持できない重要なホルモンと、無くても生命にかかわらない比較的重要度が低いホルモンとがあります。前者には副腎皮質ホルモンや甲状腺ホルモンが含まれ、後者には女性ホルモンや乳汁分泌ホルモン、成長ホルモンなどが含まれます。後者のホルモンは例え分泌が無くても、生命にかかわる症状が出ないため、基本無症状です。後者のホルモンの症状は、身体がそのホルモンに対する渇望状態にある時のみおこるのです。
繰り返しになりますが、幼稚園児は体が女性ホルモンを欲しがっていないので更年期症状を呈さないのです。それに対して閉経前後の女性は体が女性ホルモンを欲しがっているので更年期症状が出るのです。

これを日常生活での出来事に置き換えるとこんな風になります。

なかなかお店に入荷しない大人気のブランドもののハンドバックがあったとします。そのバックを欲しい女性は毎日、『まだ入荷しない。』と渇望感を感じながら店の前を通ります。その一方で、大人気のバックなんかには全然興味がないおじさんなどは何の感情も抱かずにその店の前を通ります。もちろん渇望感などは持っていません。この渇望感はバックが手に入らないために起こるのではなく、“バックが欲しいのに手に入らない”ために起こるのです。渇望感の激しさという症状の程度に最も関与するのはバックに対する“欲しがり度”なのです。
しかし、この“欲しがり度”はなかなか数値化する事は出来ません。もしも一個だけ限定で入荷したバックを『お客様の中で最もこのバックに対する欲しがり度が高い人にお売りします』などと店員が言おうものなら必ず口論になりそうです。

更年期障害のケースでもこの事は当てはまります。女性ホルモンを体がどれだけ欲しているかを正確に数値化する事は出来ません。しかし、更年期障害の診断、治療にはこの欲しがり度を評価する事が不可欠です。そのため我々は、①簡易更年期指数(SMIスコア)というチェックシート、②血液検査で測定する卵胞刺激ホルモン(FSH)の数値などを測定する事で“欲しがり度”の評価を行っています。

更年期障害かな?と悩んでいる方は、ぜひ一度、女性ホルモンの欲しがり度を表すFSHを血液検査で調べてみると良いでしょう。

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岡宮 裕 院長
1990年 杏林大学医学部 卒業 慶應義塾大学腎臓内分泌代謝内科に入局 横浜市立市民病院・静岡赤十字病院・練馬総合病院他 腎臓病・高血圧・糖尿病・血液内科やアレルギー疾患など内科全般の幅広い医療に従事。 代々木上原の吉田クリニックにおいてプラセンタ注射を使った胎盤療法等の様々な領域について研鑽を重ねる。 2009年 代官山パークサイドクリニック 開業 2011年 海外渡航前医療センター 開設

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