ヒスタグロビン注射のアトピーへの応用についての話、アトピー性皮膚炎の治療総論にまで言及しているため、だいぶ回り道をしていますが、続けます。
今回は、「長い治療と短い治療」についてです。

 アトピー性皮膚炎の治療で、「長い治療と短い治療とどっちが良い?」と聞かれたら、皆さんはどう答えるでしょうか?
 もちろんアトピー性皮膚炎の治療は長期に渡る事は、理解しているとは思うのですが、それでもこう聞かれたらついつい思ってしますのではないでしょうか。「短い治療の方が良い」と。
 ここにアトピー治療の落とし穴があります。

 短期間で効果のある治療というものは、往々にして代償を伴います。身体の負担が少なくないのです。
 ステロイドホルモンの内服などは、その時点では副作用が少なくきれいに治るように見えます。しかし、長期的には少なからぬ副作用を有しています。それは、糖尿病や胃潰瘍の発症などの内科的に大きな問題になる場合もありますが、多くの場合は内科的に問題はないものの、目には見えないレベルでの身体の負担を生じます。これが、一生の間には結構大きな違いとなってくるのです。
 長い間、地道な努力を繰り返す種類の治療というものは、なかなかモチベーションが維持しにくい側面があります。そのため、短期間で判りやすい結果を伴う治療についつい飛びつきがちです。
 もちろん、一時的な悪化に対する対症療法としての多量ステロイド使用や強めの内服が必要な場合は別として、日常の治療の場においては、最低限の抗アレルギー剤と最低限のステロイド外用薬にとどめ、漢方の内服などの地道な治療を根気よく続けていくことが重要になります。

 アトピー性皮膚炎の治療については、もう一つ考えなくてはいけない要素があります。それは、肌質の変化という問題です。
 アトピー性皮膚炎に対して、最低限の抗アレルギー剤とステロイドなどの外用薬を使っていくことはとても重要な事です。痒みを放置しておくと、就寝中などに肌を爪で搔くことによって皮膚の構造が壊れ、アトピーの所見悪化に繋がります。それに対し、抗アレルギー剤で掻痒感を軽減し、ステロイド外用薬を必要最低限の量で使い局所の炎症を防ぎ、病状悪化の芽を摘み取る事、これは必要な治療です。必要かつ重要な治療です。
 しかし、これらの治療は、必要な治療ではあっても、肌質の変化をもたらせます。
 抗アレルギー剤の中核をなす抗ヒスタミン剤は、治療を構成する上に於いて欠かすことのできない重要なものですが、副作用として、脳の活動性の低下(インペアードパフォーマンス)と、皮膚や粘膜の乾燥を引き起こします。
 アトピー性皮膚炎は、そもそもの病態として皮膚の構造の変化を生じているため、皮膚の保水力が低下しています。そこに、例え治療であっても、保水力に更に悪影響をきたしかねない治療が加わるのです。
 アトピーの治療に於いて、抗ヒスタミン剤やステロイド外用は、ある程度は必要不可欠であると考えます。しかし、それらは必要最低限の使用とし、漢方薬や食生活を含む日常生活改善による地道な治療を続けることが、長期的に見た時には、重要であり、一生の間には大きな違いとなって行くのです。

 この、肌質に悪影響を与えない、長期的に見てアトピーの状態を改善傾向に導く、もしくは最低限肌質を悪化させないという観点で見ると、ヒスタグロビンの注射は優れていると考えます。
 このヒスタグロビン注射を、食事や生活習慣の改善、漢方薬内服に加える事によって、長期的にはステロイドや抗ヒスタミン剤の使用量を減らす事と、満足のいく治療結果が得られるという事の両立を図る事が出来ます。
 この様な治療方法であれば、10年20年という長期間続けて行っても身体の負担が少ない「長い治療」とする事が出来るのです。
 そして、これは、絶大な治療効果はあるが、半年一年と続けるには身体の負担が大きいため途中で治療継続を見直さなくてはならない、いわゆる「短い治療」の対極にある治療といえます。
 つまり、アトピーの治療に於いての“長い治療と短い治療”というのは、“長い時間を要する治療と短い時間で効果のある治療”ではなく、「身体の負担という面において長く続ける事が可能な安全な治療と、短期間にとどめないと身体負担の大きな治療」であるという認識を持って頂きたいと考えます。
 それらを踏まえたうえでの治療計画が重要であると私は考えます。

 次回は、アトピー性皮膚炎に於ける民間療法を含む多種多様な治療とその問題点について、大まかに話したいと考えています。アトピーに於ける“世界にひとつだけの治療?”です。

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