夏場に気をつけたい熱中症の話をします。
 近年、地球温暖化の影響か夏場の気温が上昇傾向にあります。それに伴い熱中症で救急外来を受診する患者さんが10年前に較べて倍増しています。熱中症は重症化すると生命にかかわる事もあり、2007年には全国で904名の方が熱中症で死亡しています(国立環境研究所の統計による)。
 熱中症とは、体内の水分や塩分(電解質)が失われるために血管内に水分が不足する状態が生じ、それによって起こる様々な病態の総称です。熱中症は、初期には血管拡張による脳の血流低下により、めまい、失神、ふらつき、動悸、唇のしびれ等の症状が起きます。これを「熱失神」と言います。これに脱水が加わると脱力感、倦怠感、吐き気、嘔吐、頭痛など「熱疲労」の症状が現れます。さらに脱水傾向が強くなり、体重の2~3%以上の水分が失われると「熱射病」という病態になります。熱射病になると、脳の生命維持機能に支障をきたすため、ボーっとしたり、言動がおかしいなどの意識障害の兆候や、体温調節中枢に異常をきたすと40℃を超える異常な体温上昇が起こります。この状態をさらに放置すると完全に意識を消失します。またDICという血管内に大量の血栓を生じ、全身の臓器の血管が詰まって肝臓、腎臓、脳、肺、心臓が障害され重症化、最悪の場合は死に至ります。熱射病の兆候があれば一刻も早い医療機関への搬送が必要です。

 熱中症というと炎天下の激しい運動や土木作業で起るというイメージがありますが、実は直射日光の当たらない室内でも起こりえます。2003年、ヨーロッパを襲った猛暑の影響でフランスの首都パリでは一日に推定300人近い人が熱中症で死亡したと推測されていますが、その大半は室内にいたお年寄りでした。我が国でも統計に表れていない熱中症関連死亡は統計上の死亡者数を遥かに上回るという推測もあります。熱中症による生命の危機は決して他人事ではない、身近な問題なのです。

熱中症の予防

では、熱中症はどうすれば防げるのでしょうか?
 熱中症予防には、日差しを帽子や日傘で防ぐ事が基本です。これだけでも上記の熱失神の大部分は防ぐ事が出来ます。しかし、熱中症の予防に最も重要なのは、発汗などで失われた水分などを適切に補充する事です。

 人間の体は約60%が水分で構成されています。体の水分は尿や便で排泄される他、不感蒸泄という呼気や皮膚からの自然蒸発によっても失われるため、全く汗をかかなくても一日約1500mlが失われます。夏場の暑い時期などでは、それに発汗が加わると一日に失われる水分量は2000~3000mlに達します。失った水分を補充しなければそのぶん体の水分量は減少し、脱水になります。室内にいても脱水が進行すれば熱中症となり、放置すれば熱射病を生じます。特に高齢の方の中にはトイレが近くなるなどの理由から水分を摂りたがらない方もいらっしゃいますが、熱中症予防の観点からは望ましいものではありません。必要な量の水分は飲むように心がけてください。寝たきりの方などにも配慮が必要です。ご自身で水を飲める環境にない方で体重測定もままならない方は、ご家族の方が皮膚の張りや尿量を見て水分量を調整する必要がありますので、夏本番になる前に一度主治医と相談されると良いでしょう。

電解質

熱中症の予防にはナトリウムなどの電解質の補充も重要です。発汗によって水分に加えて電解質も失われるため、水分だけの補充ではナトリウムなどの電解質が血管内に不足し、低調性脱水という病態を生じます。電解質の補充にはアクエリアス、ポカリスエットなどのスポーツドリンクが最適です。また現在では、オーツカからOS-1という経口補水液が発売されていますが、これは米国小児科学会の経口補水療法の指針に基づいた組成の本格的な飲料です。OS-1は医学的には理想的な補水が可能ですが、味は同社のポカリスエットにかないません。

脱水を防ぐ食べ物

その他、脱水を防ぐ効果のある食べ物としては、白桃、スイカがあります。白桃は血管内脱水を予防する効果がありますが、よく冷やした白桃は味覚的にも美味しくお年寄りにも喜ばれます。白桃に含まれる果糖は暑気あたりにも効果的で一石二鳥と言えます。スイカについても同様の効果があります。ただし、スイカは水分を多く含み大量に食べるのにはパワーを要します。特にお年寄りにはスイカをモリモリ食べるのは無理があるかもしれませんし、お腹も冷えてしまいがちです。何か良い方法は無いのでしょうか?実は「西瓜糖」というスイカから作った漢方(?)があります。「西瓜糖」薬局などで販売されていますが、家庭でも作る事が可能です。スイカの赤い部分を種ごとミキサーにかけてそれを弱火で小一時間煮込むだけで作れます。「西瓜糖」は脱水予防、熱中症予防の効果に加え、リコピンやシトルリンなどを含むため、夏場の肌のトラブルにも有効です。

 それでも脱水傾向が続く時などはツムラやクラシエの漢方を使った医療機関での治療が有効です。17.五苓散という漢方薬を主に処方しています。当、代官山パークサイドクリニックでは患者様の証(体質)に合わせた保険での漢方治療を行っています。

 運動時の熱中症予防についても気軽にご相談ください。日本体育協会公認スポーツドクターとしてあなたに合った運動処方を行ったり、アドバイスが可能です。

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岡宮 裕 院長
1990年 杏林大学医学部 卒業 慶應義塾大学腎臓内分泌代謝内科に入局 横浜市立市民病院・静岡赤十字病院・練馬総合病院他 腎臓病・高血圧・糖尿病・血液内科やアレルギー疾患など内科全般の幅広い医療に従事。 代々木上原の吉田クリニックにおいてプラセンタ注射を使った胎盤療法等の様々な領域について研鑽を重ねる。 2009年 代官山パークサイドクリニック 開業 2011年 海外渡航前医療センター 開設

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