新型コロナウィルス、マスク熱中症に気を付けよう


新型コロナウィルス感染症(COVID-19)は、我が国では現在やや感染者数が減少する傾向を見せています。しかし、今後、夏になっても感染力は減弱する事はあっても、消失しないとの見解が大勢を占めています。そのため、コロナウィルスに対する感染予防の基本は継続される見通しです。いわゆる三密を避け、マスクを着用し、ソーシャルディスタンスを保つことは今後も行われると思われます。
その中で、今後問題になるかもしれないものにマスクがあります。今後、夏になってきてもマスクを着用する事による熱中症のリスク、いわゆるマスク熱中症ないしコロナ熱中症の問題です。
マスク熱中症とは何で起きるのか、どの様に対策したら良いのかをお話したいと思います。

先ず、マスクをすることで何が起こるのでしょうか。
マスクをしない、通常の状態で呼吸をすると、吸気は概ね外気温の25から30℃で低湿度、呼気は体温=36℃で湿度100%となります。その差で身体の熱はある程度放出されます。犬が暑いと呼吸を頻回に行って身体を冷やす状況が我々人間でも起きるのです。
それに対してマスクをした状況だと呼気の温度36℃、湿度100%の空気を再度吸入する事になります。(あと、若干酸素濃度も低くなります。)。呼気吸気の差や水分蒸泄による体温低下の効果がなくなることとなります。
そのため、マスクをすると熱中症になりやすくなると考えられます。マスクをしての運動の場合は、マスクが必要であるかどうかの状況を判断する事や、こまめに休養をとり、木陰など涼しい場所、ソーシャルディスタンスを保てる場所でマスクを外して深呼吸する、こまめに水分、電解質を補充する事によって熱中症の発生を防ぐ事が重要です。

マスク熱中症の発症については、実は呼気吸気のバランスが崩れる事よりも重要な問題もあります。
私はスポーツドクターとしての診療活動を行っていますが、スポーツ医学の観点からのマスク熱中症について話したいと思います。

新型コロナウィルス感染症の予防の際に装着するのに最適とされている医療現場で使われているサージカルマスクを着けて、持続運動トレーニングをした時の身体負荷の研究があります。
我が国で行われたサージカルマスクを装着した状態でVO2maxという運動負荷の指数で80%程度の運動を行った時の心肺に与える影響についての研究です。
その研究によると、サージカルマスクを装着しての最大負荷の60~80%の運動負荷におけるデータでは、呼吸の苦しい症状は自覚するものの、血液中の酸素濃度は通常呼吸時と同等、脈拍と呼吸回数の増加も同程度との事でした。(マスクをして走る方が苦しいと感じるも、脈も呼吸も酸素濃度も変化なし、影響なしとの結果でした)。しかし、一回換気量はマスクなしの59.2±7.51mlから72.9±9.51mlと有意に上昇している結果(中央値で23%増加)が出ています。
つまり、運動負荷80%までのサージカルマスクを装着しての運動では、一回換気量を増大する努力呼吸を行う事でマスクによる呼吸低下をカバーしているのです。
しかし、名古屋大学の松井秀治らの報告によると、努力呼吸でカバーできるのは運動負荷80%までであり、それ以上の負荷の運動はサージカルマスクを装着して行う事は推奨されないとの事でした。

そういえば、学校が再開された中国で、中学生3人が体育の授業中にマスクをしたまま走って死亡したとのニュースがありました。中には高性能のN95マスクをしていた生徒もいるとの事でしたが、やはりマスクをしての運動負荷80%以上の運動は危険ではないでしょうか。80%以下の運動か、縦方向に距離を保ったうえでのマスクなしでの運動にするなどの工夫が必要と考えます。
※デヴィッド・マーチンらの研究では、陸上の中長距離トレーニングでは、持続する事によって最大無気的能力の改善が見込まれるとの研究もあるため、マスクを着けてのトレーニングも続けていけば身体は順応するとの考えもありますが、それに期待するのはあまりにも危険でしょう。

以上の研究は、アスリートが呼吸機能を強化する目的でマスクを使用したトレーニングを行うためのものですが、マスク熱中症に関するリスクにも応用できる研究と私個人的には考えます。
以下にそれを考察します。
マスクをしている状態では努力呼吸となる訳ですが、上記の研究では23%の換気量の増加となっています。(人間は生きている以上は生命活動が行われますので、体動時はもとより、休息している時にもある程度の努力呼吸=換気量の増加はあると考えられます。その状態に関しての研究はありませんが、運動時に準じた努力呼吸は起きると考えますので、その前提で話をします)。換気量を増やすためには、呼吸を行う筋肉=呼吸筋の働きがより多くなります。また、呼吸回数が同じで呼吸筋の働く量が増えるという事は、呼吸筋の収縮速度が増加する事を意味します。収縮速度の増加は、呼吸筋への負荷をさらに増やします。
呼吸筋の収縮速度の上昇は、例えていえば駆け足と同じです。同じ1000mでも歩きと駆け足では負担が違います。マスクをしている時の呼吸筋の負担は、通常1000mを歩きで行くところを、1230mを駆け足で行けと言われている位の負担がかかっているのです。
マスクをすることによる呼吸筋の負荷は単に23%増加ではなく、もっと大きな負担増となっていると考えます。
呼吸筋を含むすべての筋肉の負荷は熱を発生します。発生した熱は、身体から放出する必要があり、それが妨げられれば熱中症のリスクになります。
呼吸筋への大幅な負担増は、熱産生を大幅に増す、これこそがマスク熱中症の最大のリスクと考えます。
今、ひんやりした感じを持つ、“クールマスク”という類のマスクが販売されている様です。これは先述の気道からの熱放出を助けるという熱中症予防の効果はありますが、呼吸筋の熱産生については防いでくれないため過信は禁物です。

では、このマスク熱中症、対策はどうしたら良いのでしょうか。
先ずは一般的な熱中症対策、基本を守ることが大切です。
① 水分と電解質を適宜補充する。
② 睡眠を十分にとり、規則正しい生活を送る。
③ 適度に体を動かし、節制を行い、丈夫な身体を保つ。
④ 気温と湿度に気を配り、エアコンを活用する。
⑤ 風通しの良い服など服装を工夫し、直射日光を避ける。
⑥ 飲み物を持ち歩き、随時水分補給を行う。
⑦ 冷却グッズを使う。
⑧ 無理せずに休憩をとる。
⑨ 天気予報で熱中症の状況を把握する。

そのうえでマスク熱中症を予防するためには以下を心掛けます。
① 高性能マスクは使わない。サージカルマスクもしくは、低性能であっても呼吸がしやすいマスクにする。低性能のマスクでも飛沫飛散防止効果は十分にある。布マスクは意外と熱中症リスクが高いので注意が必要。
② 必要がない状況ではマスクをしない。マスクをすることが習慣化するのは基本良いことだが、誰もいない室内でもマスクをし続ける事はマスク熱中症のリスクを高める。必要な時だけマスクをするように心がけよう。
③ 頭痛や吐き気、熱などの熱中症症状が出たら、ソーシャルディスタンスを保った状況でマスクを外し、ポカリスエットなどの電解質の入った飲料を飲む。なければ通常の水でも良い。ただし、ビールなどのアルコールは熱中症を悪化させるので飲まない事。
④ 熱中症症状が疑われる時は、襟を緩めるなど通気性を良くして、身体の熱を逃がす。冷却グッズも効果的。可能ならばエアコンのきいた室内、そうでなくても風通しの良い日陰で安静にする。

熱中症に対しては、漢方の内服も有効です。
熱中症の短期的予防や、症状が出た場合に上記に併用する形で飲むことで効果が期待できるものが『五苓散(ごれいさん)』という漢方です。
五苓散は、沢瀉(たくしゃ)、蒼朮(そうじゅつ)、茯苓(ぶくりょう)、猪苓(ちょれい)という身体の水分バランスを適正に保つ働きがある4種類の生薬に加えて、桂枝(けいし)が配合されている即効性のある漢方薬です。漢方はその人の体質によって異なるものを使いますが、熱中症に対して五苓散を使う場合は体質にかかわらずに第一選択として良いとされています。
この五苓散、もともとは熱中症=脱水とは真逆の病態である浮腫みを解消する漢方として広く用いられています。
五苓散の面白いところは、浮腫などの身体に水分が余っていて取り除かなくてはいけない時は、水分を除去する利尿剤の様に働きますが、脱水の時には、逆に水分を血管内に強力に保持する役割を担ってくれます。便利な漢方です。

夏になると食欲が落ち、元気がなくなるタイプの人の熱中症の予防について良い漢方薬があります。
『清暑益気湯(せいしょえっきとう)』という漢方で、熱中症リスクが高まるお年寄りなどにも活用したい漢方です。熱中症リスクのある季節に常用して、体質改善を図る事が出来ます。

熱中症は、暑さへの順応が不十分である初夏などに多く発生すると言われています。今年は、ステイホームで家にこもりがちである状況などを考えると、暑さへの順応が不十分になる可能性が高く、熱中症に対しては例年に増して注意する必要があると考えます。
消防庁の統計によると、全国で2019年に熱中症で救急搬送された患者は7万1317人、そのうち126人が死亡しています。この死亡数は直接の死因が熱中症という人の数であり、熱中症が原因で他の疾患を併発して死亡した人を含めるとその数は千人を上回るという説もあります。意外と熱中症は危険なのです。

新型コロナウィルス感染症(COVID-19)を防ぐ事は重要です。しかし、それを防ぐためのマスクによりコロナ熱中症となって生命健康を損ねては本末転倒であると考えます。
正しい感染予防を行って、このコロナの夏を乗り切りましょう。