新型コロナウィルス感染症に伴うステイホームにより、未就学児がいる母親の50%程度がうつ状態を鑑別する必要がある状況ではないかと言われています。
もちろん、本格的なうつ病がある場合は精神科ないし心療内科を受診のうえ抗うつ薬などの内服による治療が必要になります。
しかし、精神科治療を必要とするレベルではない軽いうつ状態については漢方薬を飲むという選択肢もあると思います。

最近、当クリニックでもステイホームによるストレスを訴える方も多いのですが、その方々に処方する機会が増えたのが、『半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)』という漢方です。
半夏厚朴湯の病態は、ツムラ(漢方薬の代表的メーカー)の記載によると以下となっています。
『気分がふさいで、咽喉、食道部に異物感があり、ときに動悸、めまい、嘔気などを伴う次の諸症:不安神経症、神経性胃炎、つわり、せき、しわがれ声、神経性食道狭窄症、不眠症』
漢方的な病態としては“気”という生命エネルギーがうっ滞する『気滞(きたい)』という病態に適する漢方とされており、のどや胸の肉体的、精神的な“つかえ感”を手掛かりとして処方される事が多い漢方です。
また、漢方を選択する上での古来からの口伝えでは、『婦人、咽中に炙れん(しゃれん=あぶった肉の小片)有るが如き時、半夏厚朴湯をもって主とす』と言われています。あぶった肉という表現は、我が国流で言うと、『のどの奥に魚の小骨がつかえている時』といった感じでしょうか。この様になんとなく喉のつかえ感がしている時に、それが肉体的な病態であっても、精神的な問題であっても使うことができる便利な薬がこの半夏厚朴湯という訳です。そして、なぜか女性に良く効くとされています。
むくみや手足の冷えに着目して選択すると著効するケースが多い感もあります。

半夏厚朴湯の構成生薬は、半夏(はんげ)、茯苓(ぶくりょう)、生姜(しょうきょう)、厚朴(こうぼく)、蘇葉(そよう)。シンプルで身体の負担の少ない生薬構成から成る、漢方の中でも比較的安全に飲めるものとなっていますが、若干燥性=乾燥作用が強い傾向にあるため、浮腫み=水毒(すいどく)がない人が長期間飲むと、時として乾燥傾向の副作用がでる事があります。
半夏厚朴湯は、ステイホームで精神的にもやもやした感じを自覚する場合や不眠が出現した時に、定時内服としても良いですし、即効性があるので症状がある時に頓服として服用するのにも適しています。

半夏厚朴湯は、肝鬱(かんうつ)を治す漢方=琉肝剤と併用する事で効果の増強が期待できるとされています。
肝鬱に対する代表的な漢方である『小柴胡湯(しょうさいことう)』は半夏厚朴湯としばしば併用されますが、これは半夏厚朴湯の作用増強にとどまらず、気管支炎や気管支喘息による咳やつかえ感にも著効する場合があり広く応用されています。小柴胡湯と半夏厚朴湯の組み合わせはしばしば併用されるため、江戸時代に我が国でこの二つを合包したものが『柴朴湯(さいぼくとう)』として用いられ、現在に至っています。良く組み合わされるものは、“お得なセット”として売り出されるという訳ですね。

半夏厚朴湯の適応だが、胃腸が特に弱いという人には、半夏厚朴湯に『茯苓飲(ぶくりょういん)』という嘔気や胸やけなどの胃腸症状を伴う胃炎に使う漢方を併用する事が行われます。この組み合わせも合包剤=セット商品が存在します。『茯苓飲合半夏厚朴湯(ぶくりょういんごうはんげこうぼくとう)』という漢方です。もともと胃腸が弱く、体力もないタイプの人が飲むのに適した漢方で、体質改善効果も期待できます。しかし、生薬数が増えるため、半夏厚朴湯単剤として用いるよりも即効性に欠けるため、神経症や不眠症などの頓服として用いるのには適さない感があります。
さらに体力がなく、めまいや立ち眩みをしばしば生じる人には、この茯苓飲合半夏厚朴湯に加えて『苓桂朮甘湯(りょうけいじゅつかんとう)』を併用すると著効する場合があります。

漢方は、同じ病名、同じ症状であっても、その人の証(しょう)=体質によって、最適な漢方が異なります。
上記の症状が気になる方は、一度東洋医学的な診たてをしている医療機関を受診する事をお勧めします。

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