テレビでもネットを見ても、新型コロナウィルス関連のニュースで埋め尽くされている感があります。
新型コロナウィルスに対する漢方については今までのコラムで書きましたが、今回は『新型コロナウィルスが心配なこのご時世に於ける花粉症治療の意義』についてお話したいと思います。

先ず2020年シーズンに於けるスギ花粉の状況です。事前の予想では2020年の花粉飛散量は2019年の60%程度と少な目の予想でした。これから予想される花粉症の症状は例年より軽めであるはずでした。
しかし、ふたを開けてみると2020年の花粉症症状は、花粉量が極めて多かった昨年、一昨年に比べればまだ軽いものの、例年に勝るとも劣らない辛さがあります。

当、代官山パークサイドクリニックの外来患者さまの訴えから見る限りでは、今年の花粉症は、くしゃみ、鼻水、鼻づまりの典型的な花粉症状よりも、目のかゆみ、皮膚症状、のどの違和感や咳などの非典型的症状で悩んでいる方が多いという特徴がある様に思います。まあ、花粉の飛散量が多くても少なくても、比較的重い花粉症がある場合はあまり症状の多寡に関与しない、花粉が少なくてもある程度辛いという面はあるのですが。

さて、花粉症と新型コロナウィルスを始めとする感染症の関係について考えてみる事にしましょう。
結論から言うと、花粉症がある人は感染症に対して不利になります。そしてそれはある程度、治療で改善が期待できます。
その理由を以下に述べたいと思います。

① 花粉症は、スギ花粉などのアレルゲン物質により、本来は異物を排除するために働く身体の防御機構が過剰反応する事によって生じる反応です。皮膚の掻痒感、鼻やのどの粘膜の違和感や鼻汁などの過剰分泌、気道の過敏性上昇による喘息様の咳、皮膚の掻痒感などの症状を生じます。
このアレルゲンに対する反応は、単につらい症状が起きるだけでなく、皮膚や粘膜の状態を悪化させます。粘膜や皮膚の状態の悪化は、感染などからの防御力の低下をきたすため、感染のリスクが高まります。つまり、花粉症は状態が重篤であればあるほど、感染などが起きる可能性が高まるのです。
② 花粉症の症状である鼻汁や咳、全身倦怠感は、37.5℃以上の有意な発熱がないウィルス感染の初期症状と酷似しているため、花粉症なのか感冒など感染症状なのかを見分けるのが困難であるという点があります。
また、花粉症の人もウィルス感染が生じるリスクは他の人と同等ないしそれ以上であるため、花粉症に感染が合併している場合は極めて判断が難しくなります。そのため、感冒を花粉症の悪化と思い込んで、感染症状を手遅れ気味にさせてしまったり、周囲の人に感染させてしまうリスクを高めたりすることにもつながります。
③ その他にも、花粉症の症状があると感染につながる行為を行ってしまうという事にも注意が必要です。花粉により鼻汁があると、頻回に鼻を触ったり、鼻をかんだりします。口腔内の違和感や乾燥があると、無意識に口許に手をやったりする事も増えるでしょう。これら、粘膜に手で触れる事によってウィルスを感染させる確率が高まります。目のかゆみにより目をこする行為もまたウィルスなどの感染リスクを高めます。
④ 自身の感染のリスクではないのですが、他者に与える影響という点でも花粉症を持っている人にとっては悩ましいものがあります。新型コロナウィルスに対し厳しい目が向けられる昨今において、例えそれが花粉症によるものであったとしても、人前で咳やくしゃみをする事は、周囲にとって脅威を感じさせかねません。
花粉症に症状が出ない状態のウィルス感染を合併している場合は、それが感染による咳であっても、花粉症による咳やくしゃみであったとしても、結果として他人に感染させてしまう危険があります。特にくしゃみは、大量の飛沫を飛散させることにより、通常の咳よりも感染させる可能性が高いと考えられます。

以上の理由から、花粉症の症状を放置しておくと、新型コロナウィルスを含む感染症に対するリスクが高まる理由がご理解いただけたと思います。
では、どうしたら良いのでしょうか。

花粉症がある人は、通常の花粉症対策をきちんと行う事が重要です。
先ずはマスクです。マスクは花粉の気道からの侵入を有効に防いでくれるため花粉症に対しては最も優先すべき対策です。マスクをすることは、他者からの感染症予防の観点からも、他者への感染拡大を防ぐ目的でも有効ですので、必ず行う事が望まれます。
コートや上着、カバンなどを居間や寝室などの生活空間持ち込まないようにする事も重要です。花粉症の観点では、コートを玄関外ではたき、花粉を落としたうえでコートを玄関で管理する事によって、生活空間の花粉濃度を減少することにより、室内でのアレルギー症状を有意に軽減させます。感染予防の観点でも、病原体が付着している可能性のある粒子や物体を室内に持ち込まない事は、所持品の消毒以上に感染予防に寄与します。

以上の対策を行ったうえで、適切な花粉症治療を行う事も重要です。
花粉症に対する治療は新型コロナウィルスなどの感染症予防の観点でも、先ずは一般的な治療を行う事で基本的には構いません。抗ヒスタミン剤の内服、点眼薬、点鼻薬などの併用で十分にアレルギー症状を抑える事が、鼻粘膜や口腔粘膜、眼瞼結膜、皮膚の状態の悪化を防ぐことに繋がります。

一般的な花粉症治療の中でも、ウィルス感染との兼ね合いで注意しなければいけない治療も存在します。ステロイドの内服は、アレルギーの症状は有意に改善しますが、ウィルスや細菌感染に対しては不利に働くので注意が必要です。同じステロイドでも、点眼や点鼻、皮膚の外用薬については、身体への吸収の程度は低く、現実的には新型コロナウィルスを含むウィルスや細菌感染に対して不利に働くことはありませんので心配せずに使うことが可能です。
ただし、ステロイドの注射には十分に注意が必要です。デポステロイド注射といわれる『注射一本で一シーズン花粉症が抑えられる注射』というものです。デポステロイド注射は、皮下組織に薬液が入り込み、長期間にわたってステロイドを供給し続けるという性質の注射です。それにより、注射後数週間にわたってステロイドによるアレルギー症状の緩和が可能となりますが、同時に免疫力が低下するという副作用が必ず起こります。
ステロイドの内服であれば、副作用が出たり、免疫が低下しては困る状況が出たりした場合は内服中止という事が可能ですが、デポステロイド注射を行うと、良くも悪くも効果も副作用も長期間にわたって持続するため、その様な場合でも対処のしようがありません。
新型コロナウィルス感染の場合でも、高齢者や基礎疾患を持っている人=免疫力低下がある人が重症化しやすく、生命にかかわりやすいと言われています。デポステロイド注射をうつという事は、新型コロナウィルスが悪化しやすい状態を自ら作り出してしまう事になるため、絶対にお勧めできません。
当、代官山パークサイドクリニックでは、以前よりデポステロイド注射は行わず、花粉症に有効かつ副作用の少ない注射治療を行っています。

花粉症と感染症治療の両立という観点で、一番お勧めなのが漢方薬による治療です。一例をあげると、花粉症治療に使われる代表的漢方薬である『小青竜湯(ショウセイリュウトウ)』があります。
小青竜湯は眠くならずに鼻汁や咳、目のかゆみなどのアレルギー症状を素早く抑えてくれる漢方で、花粉症を含むアレルギー性鼻炎では最もスタンダードに使われています。(小青竜湯の詳細については、こちらのコラムもご覧ください①)
この小青竜湯は、同時に鼻汁などを中心とした感冒時にもよく使われ、ウィルス性の感冒の時には特に効果的なばかりか、気管支喘息の治療薬として用いる事もある便利な薬です。
もしも、花粉症の人が新型コロナウィルスなどに感染しても、感冒症状を有効に抑えてくれて、咳の悪化などの呼吸器症状にも効果的であるなどのメリットがあります。
もちろん、新型コロナウィルスが疑われる場合、適切な検査を含めた対応は必要ですが、花粉症で飲んでいる薬が、新型コロナウィルスなどのウィルス治療を阻害しないというのは、大きな安心に繋がるかと思います。
歴史的にも、かつてスペイン風邪が世界的に流行した際、世界で人口の2%の死者を出しましたが、我が国の死者数は有意に少なかったという事がありました。その要因として、我が国には生活の場で手洗いの習慣があったことに加えて、スペイン風邪治療に漢方薬が使われた事が挙げられています。その使われた漢方薬の中でも使用頻度が多かったものの一つが小青竜湯と言われています。このことからも、花粉症治療に小青竜湯などの漢方薬を使う事はウィルスなどの観点から見ても有効と考えます。
漢方薬は、飲む人の体質=証(ショウ)によって、同じ病態や同じ目的でも違う漢方を選択する必要があります。漢方内服を希望する方は、是非とも漢方診療を行う医療機関を受診する事をお勧めします。

 

お気軽に
お問い合わせください

診療時間 午前10時-14時 / 午後16時-19時[水・土休診]
※金曜は21時まで診療

author avatar
岡宮 裕 院長
1990年 杏林大学医学部 卒業 慶應義塾大学腎臓内分泌代謝内科に入局 横浜市立市民病院・静岡赤十字病院・練馬総合病院他 腎臓病・高血圧・糖尿病・血液内科やアレルギー疾患など内科全般の幅広い医療に従事。 代々木上原の吉田クリニックにおいてプラセンタ注射を使った胎盤療法等の様々な領域について研鑽を重ねる。 2009年 代官山パークサイドクリニック 開業 2011年 海外渡航前医療センター 開設